ロッキード事件前後に作成されたアメリカの公文書が公開されたことにより、新たにわかったことをまとめた本。
重要な論点は、「田中が独自の資源外交を展開した」あるいは「日中国交回復を進めた」ことがアメリカ政府の忌諱に触れ、それが原因で政治的に抹殺されたという説の妥当性だろう。
結論的に言えば、その説を論証する資料は、出てこなかった。
はっきりしたのは、大統領の分身としてアメリカ政府を動かしていた大統領補佐官・国務長官だったヘンリー・キッシンジャーが、口の軽い(雑駁な性格)田中角栄を嫌っていたことくらいである。
事件当時、明るみに出たのは、ロッキードから出た工作資金の一部が田中に渡り、全日空がトライスター機を購入する際の口利きに役立てられたということだった。
これだと、悪に手を染めたのはロッキード社と田中だけということになる。
だが、根がより深いのは、哨戒機P-3Cの購入に至る動きだったはずだ。
当時の防衛庁は、次期哨戒機は国産で行くとの方針だった。
それをロッキード製P-3Cに変えさせるにあたって、巨額のカネと権力が動いた。
この点については、何も解明されていない。
本書でも、決定的な証拠は出てきていない。
ここには、「日本」の一部政治家だけでなく、アメリカ政府トップ・CIA・そのエージェントである児玉誉士夫などが関わっている。
児玉を含め、事情を知るものはすべて、消されている。
事件の全体像は結局、闇に葬られたと言えそうだ。
ここで政治家は、端役に過ぎない。
しかし、闇の深さは、政治家を震え上がらせるのに十分である。
「日本」の政治家は、アメリカに逆らってはいけないということだけを学んだようだ。