日本近代史の概説書だが、他の史書とは全く異なった叙述になっている。
歴史の叙述とはどのようなものなのかを、鮮やかに示した書。
「あとがき」の中で、著者の一人である鹿野先生は、「人びとの生活と心情の歴史」あるいは「"女子供"を主体にした歴史」をめざしたとお書きになっている。
執筆されたのが1964年だからもちろん、その後の研究成果は盛り込まれておらず、不正確な部分があるかもしれない。
しかし、読んでいて面白く、本を置くのが惜しく思われるほど、読まずにいられない。
登場人物たちの心情が生身のように伝わってきて、強く共感しないではいられない。
そんな歴史書が今、あるだろうか。
歴史の叙述とは何かということを、この本は突きつけてくる。
鹿野先生はまた、「人それぞれの"詩と真実"」というような表現もされている。
おそらくそうなのだと思う。
科学としての歴史学は、概念操作や一般論に帰結するものであってはならない。
かといって、歴史文学であってもいけない。
民衆の心のひだをも照射し、その歴史性を浮き彫りにするものでなければならない。