「大坂夏の陣図屏風」を絵解きした本。
室町時代から戦国時代にかけての屏風絵で教科書によく載っているのは「洛中洛外図屏風」だが、この作品には異本がいくつもあって、その由来については、まだ結論を見ていないらしい。
これらの大作が圧倒的な迫力を持つのは、細部に描きこまれた時代のリアリティである。
この作品には、慶長20(1615)年5月7日に大坂城下で起きた事実が、恐るべき忠実さで再現されている。
いかなる作品も、意図があって記録されるものだろうが、作品の発注者たちの制作意図は、安易に想像しがたい。
著者は、この作品に反戦への意思を感じとっておられる。
作品のリアリティを見れば、たしかにそうだろうとしか思えないのも事実だ。
武将の名前や合戦の名前や、そのわき役として活躍した男女のエピソードをちり混ぜることによって、動乱の時代が理解できたような気になるかもしれしない。
長島一揆の際の信長書状のように、戦場の悲惨を想像できる史料もなくはない。
この本を一読すると、この図屏風を使って、戦国時代史を教えてみたい気持ちになる。
生徒たちが、この作品の細部をじっくり読みこめば、意外で大胆な歴史解釈ができるだろう。
江戸時代はともかくも、戦乱なき時代だった。
封建制を激しく批判した明治人の精神は、多とすべきだろう。
近代化への契機は幕藩制社会の内部で育まれたとする見解も、完全な的外れではなかろう。
その、類まれな持続可能社会がどのような体験の後に生まれたかを想像することは、江戸時代のイメージを形成する上で、大いに意味を持つと思う。