生還特攻隊員の手記。
著者は、鹿児島県万世基地から四機編成の特攻作戦として出撃したが、出撃直後に一機が脱落し、沖縄到着直前になって僚機が海中に墜落するという事故に直面した。
残った二機中、隊長機が反転したためそれに従い、帰還した。
生還した特攻隊員は、重い負い目を背負うことになる。
上官からは、生きて帰ったことに対し、「臆病者」「卑怯者」「精神が腐っている」等々と罵倒される。
それでなくとも、自分がなぜ生き残ってしまったのかという思いで、自分を極限まで責め続けなければならない。
著者は、特攻作戦とは何だったのか、どこまでも深く追究する。
墜落した僚機に乗っていた戦友に対する謝罪や鎮魂の思いが、それを支えているのだろう。
特攻作戦の実像が明らかになるに従って、その無謀さや無責任さが浮き彫りになる。
特攻機の多くが、実際の戦闘では使えない欠陥機(整備困難機)だったこと。
搭乗員の多くが訓練不十分な速成操縦士で、いわばぶっつけ本番的な出撃を強いられたこと。
また、彼らの殆どが予備士官クラスの若者であり、多少なりとも経験を持つ中尉以上クラスの下士官はほとんどいなかったこと。
特攻作戦の立案にあたった参謀たちの多くは、「自分たちもあとから往く」と言って隊員を送り出し、生還した隊員を罵倒・暴行しておきながら、自分たちは生き残ったこと。等々。
戦死された諸兄に申し訳ないと、幾度となく謝罪されながら、特攻隊とは何だったのかが、鮮やかに示されている本である。