吉村昭『三陸海岸大津波』

 明治29(1896)年と昭和8(1933)年に岩手県三陸地方を襲った大津波をめぐる記録。
 小説風とはいえ、フィクションは入っていない。

 津波の原因はいずれも、海溝で発生した海底地震だった。
 2011年に起きた海底地震と、基本的に同じ構造の地震である。

 明治29年の地震の際に、三陸では、2万数千人という甚大な犠牲を出した。
 昭和8年の津波は、その後わずか37年後に起きた。

 明治29年津波の体験者がまだ生きていた時代である。
 警戒心がまだ生きていたからか、犠牲者は1500名あまりだった。

 昭和8年津波については、記録も多く残っており、本書が書かれた時点で体験者がいたため、実態を聞くこともできた。
 それらの記録によれば、岩手県の多くの地点で波高10メートルを超えており、20メートルを超えた地点も存在する。
 記録には残っていないが、波高50メートル近い地点も存在する。

 この列島が地球の造山運動によって作られている以上、地震や津波とは、うまくつきあっていくしかない。
 その要諦は、いかに逃げるかだろう。

 ところで、福島第一原発での最高予測水位が6.1メートルで、それを越える津波は想定外だったという話は、どう考えてもありえないと思うのだが。

(ISBN4-16-716940-1 C0195 \438E 2004,3 文春文庫 2016,6,15 読了)