『暮しの手帖』編集長の評伝。
歴史家が書くような厳密な伝記ではない。
『暮しの手帖』は、日々の暮らしで使われるもろもろの品物について、使用テストに基づき評価する記事を中心に据えて編集されていた。
編集の基本的なモチーフは、雑誌タイトルが示すように、日々の暮らしを合理的で、内実のあるものにしていくという点にあった。
反戦・護憲を叫ぶ人がいてもよいが、その人は何のために反戦・護憲を叫ぶのか。
守るべきは、日々の暮らしである。
ならば、どのような暮らしを守るのか。
守るに値しない暮らしというものが存在するだろう。
例えば、コンビニやスーパーで既成品を購入して消費するというような暮らしは、守るに値しないと思う。(そのような人を守る必要がないという意味ではない)
なにを食べるか、なにを使うかをもっと吟味し、人の手によってしっかり育てられたものを食べ、大地に根ざした合理的なライフスタイルに必要な最小限のモノとともに暮らすという暮らし方に資する情報を提示するのが、この雑誌の使命と考えられたのだろう。
著者は、花森のこのような編集方針には、戦争中に彼が大政翼賛会に入って戦争に協力したことへの痛烈な反省があると指摘している。
守るべきは暮らしの実質であるという考え方には、強く共感できる。