聞き書きを中心とした白土三平伝。
資料調査などほとんど行われていないので、ちゃんとした伝記と言えないかもしれない。
水木しげるさんもそうだが、この世代の漫画家は、基本的に、食うために描いていた。
ならば、単に荒唐無稽で可笑しければよさそうなものだが、白土さんもまた、自然や歴史をどう見るかという巨大なテーマに、真正面から取り組まれている。
人間とはどのような生き物なのか。
人間の社会はどのような人々によって支えられているのか。
人間による人間の支配とは、どのような奸計によって仕組まれているのか。
支配のシステムを見ぬくことができたところで、変革は容易でない。
被支配者の歴史は敗北の歴史である。
そのあまりに悲惨な現実をリアルに形象化したのが、『カムイ伝』に代表される白土さんの作品群だった。
彼の作品が単なる階級闘争史に終わっていないのは、山棲み・海棲みの人々の生活の知恵や技術に深く入り込んでいるからである。
闘いは、日々の暮らしの中から始まる。
日々の暮らしとは、カネを稼いでそれを遣うことではない。
山や海と対峙し、山や海に学びつつ、人間としての誇りと暮らしを成り立たせることである。
それを見抜いているから、彼の作品は重厚だし、説得力を持ちうるのだろう。