ユーラシア大陸的な規模で日本列島における古代国家の形成について展望した書。
記紀の本質は歴史の偽造書である。
それを前提に読まないと、天武の掘った落とし穴にはまってしまう。
古代ヨーロッパでもアジアでも、民族の大規模な移動はどこでも起きた現象である。
列島の民とて、どこからか移動してきたのは当然である。
原始・古代以来「日本民族」が存在しているという思い込み(おそらくは「歴史教育」による刷り込みである)が、古代史に対する想像力を摘み取っている。
本書に示されている展望の、もっとも大きな問題点は、それが推論の域を出ていないという点であるが、天武の官僚が創作した物語をあれこれ解釈したところで、歴史の事実に迫るのはしょせん不可能である。
古代史に迫るには、物語に依拠することなく、いかに幅広い展望を持って推論するかが必要だろう。
そういう意味で本書は、古代史を学ぶ醍醐味に満ちた本だった。
著者は、以下のように展望しておられる。
原列島民は旧石器時代人・縄文人である。
彼らはどこから来たのかについては特に言及されていない。
水稲耕作民である弥生人は、東南アジア系の人々で、中国南部から船によって移動してきた。
原列島民と弥生人はゆるやかに融合して、列島の基層文化を作ってきた。
列島の基層文化は、西日本西部の銅剣文化・西日本東部の銅鐸文化・東日本の縄文系文化など、地域的特徴を持つ。
銅剣文化民は、朝鮮半島と濃密な交渉を持っており、また朝鮮半島から日本列島に移動してくる人々も多かった。
(この時点で「日本」国家は存在しないから彼らを「帰化人」と呼ぶのは不適切である-サイト管理者)
4世紀末ごろに北東アジアの騎馬民族が九州北部に侵入し、大和盆地に蟠踞した。
彼ら「天孫民族」が、のちにヤマト政権を形成する。
著者の立論根拠は、文献が第一でなく、ヤマト政権時代の社会や風俗と北東アジア騎馬民族のそれとの共通点・類似点をひたすら列挙する。
記紀にもたれかかった古代史より、こちらのほうがよほど、歴史学的である。