倒幕までの木戸孝允(つまり桂小五郎)の思想的転回を分析した書。
吉田松陰門下の尊王攘夷論者でありながら、長州の藩論を左右できる地位にあり、高杉晋作ほどの跳ね返りでなかった桂小五郎が倒幕に至る経緯が書かれている。
長州藩尊王攘夷派の思想的立場はどのようなものだったのか。
単純な大義名分論による尊王論ではありえない。
長州藩指導層の経綸レベルは、そんなに低くはない。
違勅によって締結された通商条約は破棄しなければならないから、攘夷だという単純な攘夷論でもない。
彼らの思想の根底には、ナショナリズムがあったはずである。
「日本」としての統合の中核に、どのような価値が据えられるべきか。
条約を破棄すれば、列強との関係は、確実に悪化する。
最悪の場合、開戦となり、ナショナリストにとって最悪の事態である植民地化が現実化する。
にもかかわらずどうして、木戸・高杉らは、下関戦争で大敗北するまで、攘夷を主張し続けたのか。
木戸らの戦略は、締結の手続きの瑕疵のあった通商条約を一旦破棄し、改めて(外国と対等の)通商条約を結んで富国強兵を図るというものだったと、著者は述べている。
それなら理解できる。
ちなみに、これらの戦略を具体的に描き、木戸らに示したのは横井小楠だと著者は言われる。
長州単独での攘夷の実行は、長井雅楽の策動によって、一度は通商条約の追認・幕権強化に動いた長州藩の信用を回復する上で、それが必要だったからと言う。
横井の国家構想が西郷や木戸にどのように受け止められたのかを、もう少し詳細に知りたいところである。