西郷隆盛の歴史的位置を検証した本。
西郷はまず、幕末の薩摩藩を指導したリーダーであった。
そして薩摩藩は、長州藩とともに武力倒幕によ新政府樹立を、終始リードし続け、幕府打倒の原動力となった。
西郷はここでも、謀略を含め武力倒幕を徹底的に主張し続けた。
彼は、武力倒幕の立役者の一人だった。
しかし西郷は、薩長土肥の他の少壮テクノクラートたちと異なり、特権階級化して専制政治家たちの群れに加わろうとはしなかった。
だからといって彼がどのような国のありかたを構想していたのかは、わからない。
彼に何らかの構想があったかどうかもわからない。
彼を指導者とする西南戦争も、明確な国家構想のもとに戦われたとは思えない。
著者は、西郷を「皇国主義者」と位置づけている。
「皇国主義」は、有司専制と本質的に対立するものではなく、自由民権思想と連動する部分もなかった(ここでいう自由民権思想は広く国民に人間らしく生きる権利を認めようとする思想としておく)。
民権運動の時代まで西郷が生きていたとしても、彼が民衆に自由・権利を認める思想にシンパシーを見せるとはとうてい考えられない。
民衆は西郷に、そのような何かを期待していたから、彼は伝説化していったのだろうが、事実はむしろ逆に、国家によって西郷は復権され、勲位を与えられるに至るのだった。