山で暮らす人々を詩的な文章で描いた本。
列島のほとんどは険しさの程度はあれ山岳地帯なのだから、列島民の多くは山とともに暮らしてきた。
もちろん列島は周囲を海に囲まれているので、列島民はまた、海とともに暮らしてもきた。
山とも海とも無縁な暮らし方は基本的にありえなかったはずだから、そんな人がいたとすれば、「モグリ」の列島民である。
本書に出てくる人々には、二つの傾向がある。
一つは、山の暮らしにもとから従事していた人びとの流れである。
もう一つは、人生の中で山と出会い、山に関わる暮らしに入っていった人びとである。
山での暮らしに軽重はない。
どちらも自由で、リーズナブルで、油断のならない山の人生である。
ただ、山や海の暮らしは、継続されることに一つの意味があると思う。
上のどちらの流れの山人も、絶滅しつつある。
暮らしが持続可能であるための重要な条件が、共同体の存在だろう。
共同体の絆が脆くなり始め、住居が単に「寝に帰るところ」と化してしまうと、それならより便利なところがいいという話になる。
本書には、共同体という視点が欠けているといえば、多くを望み過ぎだろうか。