フクシマの被災者対策の柱として議員立法された「子ども・被災者生活支援支援法」が骨抜きにされる経緯と、放射性物質による汚染地帯へ住民を帰還させようとする政府の情報操作についてのルポ。
「原子力ムラ」復権への動きが、政府周辺では着々と進行している。
経産省などから独立した行政機関として発足した規制委員会だが、事故が起きた際の住民への対応策が書かれていない各地の原発を再稼働させようとしている。
仮に桜島で大噴火と巨大地震が起きて(地殻変動に関する研究からそれは十分に「想定」できる事態である)、川内原発がコントロールできなくなり、地域と住民に壊滅的な被害が出たとしても、「想定外だった」とか「自分たちの管轄ではなかった」などと言い訳するんだろう。
言い訳のための機関などあっても意味がないのだが。
政府は今、フクシマの事故が過去のものだと擬制するために、避難を余儀なくさせられていた人びとの帰還を急いでいる。
「これだけの住民が帰還してフクシマの復興は進んでいる」という体裁を作りたいのである。
人々が避難しているのは、地域が放射性物質によって汚染されているからである。
ここでは、「原子力学者ムラ」の人びとが活躍する。
法律に規定されている一般人の被曝限度である年間1ミリシーベルトを帰還の目安にしたのでは、帰れるところなどないから、年間20ミリシーベルトで避難指示を解除して住民の帰還を進めようというのである。
年間20ミリシーベルトの被曝が人にどのような影響を与えるかについて、はっきりした知見は得られていない。
放射線に対する感受性は、年齢はもちろん、その人の生活の仕方によってまちまちだし、そもそも被曝に関する「しきい値」は存在しないというのが、現状では最も確定的な科学的知見である。
年間20ミリシーベルトは安全であり、今の政策課題は、それを不安視する住民を「安心」させるマインドコントロールだと、「原子力政治ムラ」は考えているのだろう。
現場の役人は、上司の意を受けて善悪の判断もなく、唯々諾々とミッションをこなしているのだろう。
「原子力行政ムラ」の司令塔は、経産官僚組織の最上層あたりか。
一貫して無視され続けているのが、被曝を強いられている住民・避難者である。
「ムラ」は、住民・避難者に情報を与えず、住民・避難者に意見を述べさせない。
「日本」は、沖縄でも満州でも、「国民」を棄てた過去を持つ。
今度また、フクシマを棄てようとしている。
フクシマに住まない「日本人」は、それを黙って見ていていいのか。
それが問われている。