ミンダナオ島西端からスルー諸島、カリマンタン島北端にかけての地誌。
東南アジア島嶼部には、無数の民族が暮らしているという。
それらの民族は、島ごとに一民族というわけではなく、大きな島であればもちろんのこと、小島であっても複数の民族が暮らすことも少なくないらしい。
民族により、歴史も暮らし方は多様なのだが、19世紀以降これらの島嶼を領有したヨーロッパによる影響の受け方もまた多様だった。
各民族がテリトリーとするそれぞれの小地域ごとに、大小の抗争やドラマがあった。
著者はこれらを、徹底した文献調査とフィールドワークによって明らかにしている。
これら小地域に通底する一般論を構築するのは、困難である。
本書は、歴史に発展法則などないということを事実をもって証明した本だとも言える。
世界の現状は、国家のない地域を想定しがたいが、国家はしょせん、そこで暮らす人の都合によって成立するものである。
国境もまた、然りである。
国家や国境の枠を取り払ってもなお、人はリスペクトに値する存在である。
なぜなら人には、暮らしがあるから。
脳内で数字をいじくったりするのは、暮らしではなく、一種の遊びである。
マングローブの沼地には、リスペクトすべき暮らしが存在した。
温帯モンスーン気候のこの列島にも、誇るべき暮らしが存在した。
暮らしを忘れて、何を誇ろうというのか、脳内政治家の気が知れない。