NHKでビルマ(軍事独裁政権が国の英語読みを「ミャンマー」と改称した)語番組に関わってきた著者による、1990年代なかばころのビルマと「日本」の状況を報告した本。
戦中以来のビルマ史についても簡潔にまとめてあるので、わかりやすい。
椎名誠氏の『秘密のミャンマー』には、世界最貧国という表現が出てくる。
椎名氏のミャンマー紀行は、観光半分ながら、氏らしく現地の人々と浅く深く関わりながら、ビルマ人の心に迫ろうとする好著である。
本書には、名もなきビルマ人はほとんど出てこず、出てくるのは、軍政側・民主勢力・少数民族勢力のリーダーたちが多い。
軍事独裁政権が強権政治を転換し始めたのは、つい近年のことである。
長らく、民衆が外国メディアに本音を語れる状況ではなかっただろう。
大東亜戦争時代に「日本」は、ビルマを蹂躙し、最後はインパール作戦で自滅した。
しかし戦後の日本は、「社会主義」時代から軍事独裁時代を一貫して、ビルマの友好国であり続けた。
ビルマの民主化は、外国の資本をスムーズに導き入れて、他の東南アジア諸国のように、市場経済の旨みを得たいからだろう。
国民がいつまでも「最貧国」に甘んじていられるはずはない。
民主化は、よいことだ。
しかし、グローバル経済に飛び込むことによって、『秘密のミャンマー』に出てくるような世界がなくなってしまうのは、よいことではない。
アジアの伝統文化や伝統思想といったものの価値を再評価すべきだと思う。