抗日戦争樹以来の北朝鮮の歴史を概観した書。
北朝鮮指導部の内情や路線について事実に基づいて詳細に分析されており、わかりやすい。
朝鮮半島内部で植民地支配への組織的抵抗は存在しなかったから、日本の支配が崩壊しソ連によって朝鮮北部が占領されると、さまざまな活動家が帰国して政権作りを担った。
北朝鮮の出発にあたって、満州系(満州でゲリラ戦を闘っていた人々)、中国系(中国共産党の中で抗日戦争に従事していた人々)、ソ連系(ソ連共産党に所属していた人々)が指導部を形成した。
戦後の時期の共産主義運動は、神格化された指導者を必要としていたらしい。
そのモデルは、スターリンだった。
毛沢東は、中国のスターリンをめざし、金日成は朝鮮の毛沢東をめざした。
カリスマ化するにあたって、スターリンも毛沢東も優秀な同僚を片端から粛清し、権力を掌握していったのだが、満州系に属していた金日成も、基本的に同じだった。
独裁政権が失敗するのは、独裁者がオルガナイザーとして無能だからである。
無能な独裁者は、精神主義に走る。
「千里馬運動」といい、「主体思想」といい、民衆が独裁者に従って将棋のコマ的に動くならば何ごとも可能だというたぐいのかけ声であるが、これらはソ連・中国でも、また大日本帝国でも普通に見られた末期的状況である。
北朝鮮の破綻は、金正日が権力にコミットし始めた時期から始まった。
1980年代に入ると、自然の理に反した「主体農法」なる農法が強制され、農業生産と環境が破壊されて、食糧生産が立ちゆかなくなった。
1890年代には、北朝鮮経済の土台を支えていたソ連が崩壊し、エネルギーや基幹財が不足して、工業生産までもが崩壊した。
朝鮮戦争もそうだったのだが、金日成は、朝鮮半島の武力統一にこだわり続けていた。
「日本人拉致」事件も、そうした流れの中で起きた。
金日成死後、権力は金正日に世襲され、今また金正恩へと世襲されて、金一族は王朝となった。
軍事力以外に頼るべき力をもたない金王朝は、自己の権力の維持のみを目的として、危険な瀬戸際路線に依存しつつ、精神主義を鼓舞し続けている。
これが現在の北朝鮮なのである。