戦後から廬武鉉(ノムヒョン)政権までの韓国政治・経済を概観した書。
そのときどきの国家的課題に韓国がどのように向き合ってきたのかが、わかりやすく書かれている。
戦後の朝鮮半島にとって、最大の悲劇はアメリカとソ連による分割占領という事態だった。
半島が占領された原因は、日本による朝鮮半島植民地化だったのはいうまでもない。
北朝鮮指導部内におけるヘゲモニー争いに勝利した金日成は、おそらく中国における共産党の勝利に力を得て、半島の武力統一を画策していた。
金日成の戦争にお墨付きを与えたのは、毛沢東とスターリンである。
一方、戦争のもう一方の指導者だった李承晩もまた、アメリカの支援のもとでの武力統一に意欲的だった。
エスカレートしつつあった冷戦下にあって、半島の平和的統一を模索する動きは、主流になり得なかった。
朝鮮戦争は、民族に癒えがたい傷を残して休戦となり、南北の政権は、軍事政権化して、民主主義とは対極の政治体制となった。
北朝鮮の国内状況は見えにくかったが、韓国の軍事独裁政権の苛酷さは、日本にもリアルに伝わってきた。
李承晩・朴正熈両政権の残虐さは、金日成政権の残酷さを目立たなくさせた。
主体思想を喧伝するわりにソ連・中国に依存していた北朝鮮が経済的に伸び悩んでいた時期に、韓国の朴政権は、インフラ整備に力を入れ、日本の高度経済成長を追おうとしていた。
現在の韓国は、その延長線上に存在する。
工業化に正当性があるかは別として、韓国の最大の課題は、民主化だった。
朴正熈が暗殺されたあとも、軍事独裁政権が続いたが、廬泰愚政権末期には、民主化の流れはとどめがたくなっていた。
1992年の金泳三政権は、韓国史上初めての非軍事政権だった。
これ以降韓国は、基本的に(「日本」とは異なり)民主主義ルールの通用する国となった。
著者は、1947年の四・三事件(済州島での武装蜂起と苛酷な弾圧が行われた)と1980年の光州事件を、韓国が正面から向き合わねばならない歴史だと考えておられるようだ。
勇気を持ってそこに踏み込んだのは、廬武鉉だった。
「日本」は、金大中ほど節を曲げず闘った政治家も持たないし、廬武鉉のように自国の歴史にしっかり向き合う姿勢を持った政治家も持たない。
廬武鉉は2005年に「過去事法」を成立させ、国家による人権抑圧の事実を直視する制度を確立した。
これは廬武鉉の大いなる業績だが、それを成立させた韓国民の業績でもある。
この姿勢がある限り、韓国が間違った道に進むことはないだろう。
韓国がこれから直面しなければならないのは、朴政権以来続いてきた工業化=グローバル経済化路線だろう。
本書でもその点が、明確に書かれていない。