キヤノン電子社長が経営を語った本。
一度も管理的立場に立つことなく、仕事してきた自分なので、ちょっと偉そうに能書き垂れているような本かと、やや偏見を持って読み始めたが、案に相違して、なるほど経営するとはこのようなことなのかと、感心する部分が多かった。
30数年間、「長」という肩書きのつかない平社員として仕事をしてきたが、組織が活発で業績が上がれば達成感があり、とても充実した日々を送ることができるのは間違いないから、仕事の環境には、かなり関心を持っている。
自分にとって本書の最も興味深い部分は、「利益の出し方」と「自ら動く社員を作るマネジメント」だった。
ここは、どんな分野の仕事にも共通してあてはまる、経営のツボとも言うべきところであろう。
「利益の出し方」で著者は、ムダをなくすというごく当然のことを述べられている。
ひるがえって自分の周囲を眺めると、ずいぶんムダな仕事が多いのに気づく。
ムダかムダでないかは、平社員の関知するところではないと言われるかもしれない。
しかし、どうでもよい「仕事」に振り回されることによって、会社の本来的な目標を達成するのにどうしても必要な仕事が等閑にされるならば、「利益」は出るまい。
この場合、どうでもよい「仕事」はムダな仕事というほかない。
誤解があるといけないので説明すれば、「どうでもよい仕事」とは、「やっても悪くないがやらなくてもよい仕事」である。
どうしても必要な仕事が数値的に表現できない仕事である(たとえば部活動の指導とか)一方、統計的な資料をまとめる仕事という、結果が具体的にわかりやすい仕事があったとする。
目標は、子どもたちを心身ともに健康に育てるということなのだが、部活動の指導を多少手抜きしても、その悪影響がただちに出てくるわけではない。
統計資料のまとめを締切までに仕上げなければ、上司のそのまた上司から、上司がこっぴどく叱責される。
こんな場合、従業員が優先するのは、統計資料の方である。
部活動よりこちらを優先したところで、表面的にはなんの問題も生じないかもしれない(実際には事故や怪我などあってはならない問題がかなりの確率で生じるのだが)が、会社本来の目標(子どもたちを心身ともに健康に育てる)達成は、確実に遠くなる。
最優先すべきは、会社全体の目標が達成されるように、従業員の力を組織し配分することだろう。
経営者と幹部社員が経営の目標を従業員に常に意識させ、従業員の力を組織できていれば、会社は理想的な形で動いていくだろう。
学校と会社は組織の原理がいささか異なっているので、「自ら動く社員を作るマネジメント」の様相も多少は異なってくると思われる。
しかし、いかなる企業体であっても、全体の究極目標が全社員に共有されることによって業績を向上させることができるのは同じである。
どのようにすれば、平社員が自分の立ち位置と役割を十分に理解した上で会社に十全に貢献できるかは、難しいテーマかもしれないが、経営者は、それをあくまでも追求すべきである。
職場にいる以上、よりよい仕事をしたいと思わない社員はいない。
長く平社員を続けているので、投げやりになったり、支離滅裂な命令を乱発したり、自分の体面を保つために仕事そのものを破壊しようとする上司もごく少数ではあるが見てきたが、仕事がうまくいくかどうかはやはり、経営のし方にかかっていると思う。
本書を読んで平社員としても、頑張る勇気をいただいたが、やはり経営者にこそ、頑張っていただきたいものである。
ちなみに著者が社長をつとめておられるキヤノン電子には、若い友人たちがたくさん勤めている。
その意味でも、共感を持って読むことができた。