スコットとアムンセンの南極点到達競争の話は、子ども向けの本で読んで知っていたし、アムンセンの『南極点』や、本多勝一氏の『アムンセンとスコット』に、コンパクトにまとめられているが、スコット隊の実像については、この本を読まなければわからない。
アムンセンが成功し、スコットが失敗した原因について、『アムンセンとスコット』をはじめ、各書に分析せられてある。
それらの分析は、同様の冒険をなそうとする者にとって必要なものであるが、傍観者には必要でないばかりか、スコット隊がなしたことの意味を見誤らせる危惧さえ感じる。
スコット隊は、考えうるベストの装備と戦略と隊員をもって、既知のルートから南極をめざした。
この探検から100年たった今、アムンセンと比較して、どこかに不足があったと指摘するのは容易だが、意味はない。
隊員はみな、愉快で勇敢な人物であり、しっかり統制されていた。
この隊がヒエラルキー原理によって編制されていて、下部隊員が意見を述べることを許さなかったのが敗北の一因だという評価もあるようだ。
本書を読んだだけでは、その実態はわからないが、なにがしかの冒険において、強いリーダーシップが不可欠であるの当然であるが、そのリーダーシップを機能させる上でもっとも重要なのは、幹部隊員たちのサブリーダーシップであろう。
この隊にとって、有能なサブリーダーを得たことは、幸運なことだったと推察できる。
スコット隊はまた、生物学・地質学・気象などについての科学的知見の収集を、極点到達と同様に重視していた。
著者らが行った絶体絶命の冬季ソリ旅行は、皇帝ペンギンの卵を入手するのが目的だった。
全滅したスコット隊のテントには、極点近くで収集された岩石標本が整理されておかれていた。
食糧がが欠乏して身動きできなくなるまで、スコットたちはこれを1000キロ以上、人力ソリで運んできたのである。
人間にとって自分たちの命よりも大切なものが、ひょっとするとあるのかもしれないと、感じさせる本だった。