「日本」の自然環境保護運動を概説した書。
「日本」で自然保護という発想が生まれたのは、尾瀬ヶ原ダム計画への反対からであり、現在各地で行われている自然保護運動の出発点となったのはやはり、尾瀬縦断道路反対運動からだった。
そういう意味で、尾瀬は、その生態系や景観とともに、自然と人間を学ぶ絶好の教材でもある。
「列島改造計画」やリゾート法は、列島の自然環境にとって、手強い脅威だったし、事実それらは大きなダメージをもたらしたが、自然環境などどうでもよいと考える「日本人」は、今ではほとんどいないだろう。
コンパクトにまとめられたよい本なのだが、二つほど、言及が足りないと感じられることがあった。
一つは、自然の一環である人間が暮らすことによって維持されてきた自然環境についてである。
ドグマ的な言い方をすれば、農業や牧畜も自然破壊なのだが、人間が、自然環境とうまく折り合いをつけつつ暮らしてきたのも事実であり、日本列島の自然環境は、列島民の作為が何ほどか作用して作られているはずだ。
農山漁村の高齢化や過疎化が、シカ・イノシシによる山林食害をもたらし、原生林の枯死を招いているのは、事実である。
開発行為だけが自然環境を破壊するのではなく、農山漁村に人が暮らせないようにしているこの「国」のあり方にも問題があるのだという現実には、ほとんどすべての「国民」が鈍感である。
これを告発しなければならない。
もう一つは、普天間基地のキャンプ・シュワブ沖移転問題にともなって鮮明になってきた事態だが、戦争によって破壊される自然環境は、開発行為によって失われるそれの比ではない。
一部の官僚や政治家が「日本」が「有事」だと判断すれば、環境保護法制はすべて、効力を停止する。
例えば、日本アルプスを要塞基地化するといった発想が出てくるのは、間違いない。
戦争は、自然環境にとって、もっとも恐るべき敵なのであり、それが次第にリアリティを帯びつつあるのも、事実なのである。