マルクス・エンゲルスの伝記というと、手放しの礼賛本ではないかと、まずは警戒してかかる。
本書にも、そのような部分がないとは言えないが、まずまず冷静な記述なので、不愉快にならずに読むことができる。
マルクス・エンゲルスは、まず人間について考察し、次に社会主義が人間を解放することに思い至り、さらにその必然性を論証するために、経済学を極めた。
彼らの初発の問題意識はやはり、人間にあったのである。
そのことがことさら光彩を放っているように見えるのは、21世紀における人間と労働との関係が、19世紀のそれと本質的に全く異なっていないからである。
市民的自由を完全に保障し、生産手段の社会的所有を実現したとしても、「個」としての人間の苦悩は、解消されない。
それは、人間という生き物の生来的な属性だからである。
しかし、人間は現在、「個」としての苦悩どころか、自分の生命を維持するのに精一杯で、種の維持=子育てもままならず、個体数を減少させつつある。
マルクス・エンゲルスは、社会主義の理論を提唱しただけでなく、革命運動にも挺身した。
「万国の労働者、団結せよ」は、不滅の真理だと思う。