進水から5年で沈没に至った戦艦大和とは何だったのかについて、主として聞き書きに依りながら、簡潔にまとめた書。
前半は、建造から沈没までの概略で、後半は主として、大和の評価に関わる部分である。
内容的には、前半部分の方が興味深い。
航空戦が主力となった第二次世界大戦において、大和の建造が時代遅れだったことは、隠せないだろう。
莫大な経費を投入した大和を、実質的な戦果をあげることなく、無駄に沈ませるわけにはいかない。
大和の特攻作戦を主導した参謀は、「(大和が)無用の長物だと言われる」ことを恐れていたらしい。
大和を「立派に」沈めるために、3000人の犠牲者を殉葬したと言わざるを得ない。
だから、この作戦については、決定経過をはっきりさせることができないのだろう。
作戦立案の責任者であるはずの連合艦隊参謀長は、「自分の知らないところで作戦が決まった」と述べており、一方で、「参謀長が関知しない作戦が決定できるはずがない」という人もいる。
これだけ大きな犠牲が予測される作戦なのに、責任ある者がいないのである。
これを解く一つのヒントは、航空部隊による総攻撃を計画していた海軍に対し、昭和天皇が「航空部隊だけの総攻撃なのか」と下問したという事実である。
敗戦必至の状況下で、昭和天皇は、戦争の行方を左右できる権限を持つ最重要人物だった。
「航空部隊だけの総攻撃なのか」という下問は、「残存艦隊も使え」という命令と同じ意味を持つ。
とすれば、無謀な特攻作戦に最も責任の重いのは、昭和天皇だったということになる。
「日本人」の中に、大和を評価する意見も多い。
大和建造の技術は、その後の「日本」における工業発展の基礎になったという意見もある。
生還した乗組員も多く、大和を誇りに思っておられるようだ。
本書は、大和の評価に断を下すことを目的として書かれているわけはなく、多様な意見を紹介している。
しかし最も考えるべきは、大和とともに命を奪われた人びとの死の意味だと思う。