著者のルポに出てくるのは金属加工の町工場が多いのだが、この本に出てくるのは、多様な業種の町工場・家内工場である。
タイトルだけ見ると、いわゆる女工さんの生活を描いた本かと思ってしまうかもしれないが、この本に登場するのは、町工場を陣頭に立って経営し、自ら働いているおかみさんたちである。
熟練が必要なのは、どんな仕事にでもいえることだ。
今は、マニュアリズム全盛の時代で、小さな工程一つに細かなマニュアルがあって、その通りに作業することが至上の課題になっている。
パソコンソフトの操作なら、マニュアル通りに運ぶことは大事だろうが、一般の仕事は、基本と応用の繰り返しである。
基本をはずさず、素材に応じて臨機応変に工夫を加えれば、たいていの難題は、どうにかできるものだ。
製造業は、多くの場合男の仕事場だが、それは男が収入を得て女が家庭を管理するという、「日本」的な就業構造が原因であって、仕事の特性によるものではない。
だから、女性が切り盛りする町工場があることに、不思議はないし、「日本」のもの作りを支えている無数の町工場の相当部分が、本書に登場するような女性たちによって経営されているのだろう。
男が頑張る工場もみごとだが、見栄やはったりのない女性が、労苦は多いものの、しなやかに町工場を切り盛りする姿も、みごとである。
友人の黒沢和義さんが、埼玉県秩父地方の手業や食について聞き取った画文を書かれている。
黒沢さんのテーマは、山村の仕事や食をはじめとする暮らしであり、本書の対象とは対極であるが、なりわいの中で人がどのように生きているのかを視る目は、本書と共通していると感じた。