戦前から戦後にかけて各地の山を歩かれた著者による、山の食に関する記録。
ことさら目新しい内容ではないが、山案内の人や職業的な猟師からの見聞や実験談なので、それだけリアルに感じる。
山里で暮らすということと、山で暮らすということとは、まったく異なることである。
山里で暮らすということは、主として焼畑によって、主穀を自給しつつ、その他の山の恵みを享受しながら暮らすということである。
列島の民は主穀なしで生きることができないから、山案内や猟師といえど、拠点となる山里なしには暮らせないが、奥山へ短期・長期に入山する場合には、山の恵みに相当程度依存して日々を送ることがありうる。
ここに綴られているのは、そういう場合に何をどのように食するかということである。
山菜やきのこは、どちらかといえば、山里住民の楽しみであり必要物ないし重要な商品だった。
山人たちは、それらの恵みとともに、昆虫を含むあらゆる動物を食しつつ、山を歩いたのである。
本書の一部に、著者が実際に風貌に接することのできた修験行者についても記されている。
数年以上に及ぶ木食生活を支える思想がどのようなものであるかはおくとして、木曽御嶽山などの奥山にかつて、そのような行者が存在した。
これらの行者は、自らについて多弁を弄することはないから、何をどのように食していたのかはよくわからないが、ここに記された断片からも、列島の民の生理と食の関係について、考えさせられる。