『ルポ貧困大国アメリカ』の続編。
病めるアメリカの、オバマ以後における、教育・福祉・医療・刑務所の実態が掘り下げられている。
弱者救済という旗を掲げて華々しく登場したオバマ大統領による諸改革は、アメリカの弱者たちが抱えていた酷薄な状況をチェンジすることはできなかった。
民営化された奨学制度は、若者を一生浮かばれない借金地獄に突き落とす。
のんびりした老後を保障されていたはずの自動車メーカーOBは、年金を引き剥がされて途方にくれている。
医療保険改革は一歩進んだかに見えたが、すべて不徹底で、アメリカの医療は基本的にカネ次第で、良心的な医師は過労状況にある。
民営化された刑務所というのがよくイメージできないのだが、アメリカにおける民営刑務所とは、報酬ほぼゼロで各種企業に労働力を提供できる一種の産業らしい。報酬がほぼ不要なのだから、これほど人件費コストの低い派遣会社はない。
オバマに失望した人々は、今回の大統領選で、ロムニーに投票するのだろうか。
アメリカの大統領選びは事実上、民主党か共和党の候補しか選択できないから、よりマシを選びたいなら、オバマを選ぶしかない。
しかしオバマの限界が露見してしまった以上、投票行動に向かうモチベーションは高まらないのではないか。
本書には、オバマをいかに動かすかという角度から行動する人々が紹介されている。
これらの人々が、酷薄な現実に絶望することなく、変革はリーダーを選ぶことによって終了するものでなく、じつはそこから始まるのだということを、事実で示してくれることを期待したい。
アメリカの現実は、明日の日本の姿でもある。
日本の民主党政権もまた、惨憺たる醜態をさらしている。
国民に示した自分の初心より官僚のレクチャーに従順な政治家も呆れたものだが、彼ら政治家をしっかり監視することも、とても大事なのだろう。
本書でとりあげられているのは、教育・医療を始めとする社会保障および刑務所が「自由競争」にさらされる中で、効率化・高利益化が追求され、収奪の道具と化している現状である。
本書を再読して、アメリカの構造が見えてきた。
この国家の主権者は、各種投資グループの持ち主である。
彼らの本能は、カネを増やすために活動するということである。
カネを増やして何かしたいのではなく、カネを増やすことが彼らの本性なのである。
ブッシュ的な露骨なやり方が評判悪いと見れば、オバマに「チェンジ!」と叫ばせる。
もちろん、何も変わりはしない。
オバマもブッシュも、彼らから(一般人から見れば巨額だが)はした金をもらって踊るピエロにすぎないが、カネが彼らに還流するシステムを作るのは政治家の仕事である。
なんの罪もないアメリカ国民が、主権者のために働き、命とカネを貢ぎ、苦しみながら死んでいく。
残念ながら、それがアメリカであり、「日本」はアメリカというシステムのひとつのパーツとして機能させられている。
「日本」人とアメリカ人の違いは、その気になればアメリカというシステムから抜けることができるかどうかである。