工藤隆雄『花守記』

 ミドリ池の池畔に建つしらびそ小屋主人の半生記であり、しらびそ小屋の歴史でもある書。



 山小屋の多い八ヶ岳だが、当地から八ヶ岳へアプローチする際に、ミドリ池は稲子湯登山口から約2時間と手ごろな位置にあるため、何度か幕営したことがある。

 森の中の小さな小屋だが、晴れていれば、硫黄岳や稲子岳を望むこともでき、何より静かなところが気に入っている。

 近年は、針葉樹林のきのこを学ぶのを目的に、ミドリ池周辺できのこ山行することが多い。

 この一帯は、稲子湯からしばらく森林軌道あとを行く。
 周囲はほぼすべて、カラマツの植林地である。
 本沢温泉への軌道あとも、同様だ。

 原生林は、ミドリ池への急登部分に少し残っているだけである。
 多少なりとも平坦なところはすべて伐りつくし、カラマツを植えたものらしい。

 ミドリ池の周囲もまた、平坦地なので、軌道はさらに本沢温泉へと向かっている。
 このあたりには、伐採作業の名残らしき小道が踏み乱れてはいるが、シラビソの二次林が育ち、森の風情は悪くない。

 本書には、しらびそ小屋が、元は伐採小屋だったことや、その当時のミドリ池が汚れた池だったことなどが記されている。
 主人が育てたというコマクサ群落を愛でる機会に恵まれたことはまだないが、山と登山者を大切にする小屋がいつまでもそこに建っていてほしいと願わずにはいられない。

(ISBN4-8083-0812-6 C0075 \1500E 2004,9 東京新聞出版局 2012,9,18 読了)