1990年代以降、列島を覆いつつある新自由主義経済が雇用にどのような現実をもたらしたかをまとめたルポ。
2012年6月現在、不況と雇用劣化状況は、改善の兆しをまったく見せていない。
数年前と比較して、労働密度の強化も深刻化している実感がある。
派遣・契約労働を始めとする雇用劣化の主因は、コストカット至上主義経営である。
ここには二つの問題があると思われる。
一つは、コストカット至上主義経営は、倫理的にマトモだといえるかどうかという問題。
コストをカットするのは、経営上当然のことだが、それが他の何よりも優先されるべき課題なのかといえば、意見が分かれるだろう。
この列島では長らく、地域のための経営とか、顧客のための経営というのが、経営の美学と考えられてきたフシがある。
多くの経営者は、従業員と顧客を含めた地域社会に感謝し、利益還元することを、主要な理念としてきた。
そういう意味で、コストカット至上主義は、鬼畜的経営に見える。
もう一つは、コストカット至上主義経営が、経営上本当に有効なのかという問題。
コストカット至上主義経営は、経営倫理や法律に抵触するかしないかギリギリの、合法の枠内に位置する。
合法と違法は大きな違いだが、実際には紙一重であり、グレーゾーンも存在する。
<オリンパス/a>の事例に見るように、コンプライアンス違反と不当労働行為は同根であり、多くは同時に発生する。
経営の社会的信用を失墜させ、従業員の士気を低下させてもなお、コストカットに走るならば、職場は旧ソ連と同じく、責任を持つ者は誰もおらず、経営トップとその取り巻きとが会社を食い物にすることになり、会社の損失は莫大になる。
これを書いていて、学校なども似たような情況になりうるということに気づいて、愕然とした。