さらりと書かれた日本民俗学史。
別の読書ノートにも書いたが、学生時代に、民俗学の講座を受講しなかったのは全くの失策だったと思う。
学生時代の自分には、社会を構造的に把握したいという思いや、歴史上の持つ意味を追求したいという思いが強かったため、民俗学は、データをただ集めているだけのように見えたのだが、それは浅はかな考えだった。
本書では、柳田国男以前の民俗学者として、菅江真澄・鳥居龍蔵・山中共古を、柳田以後としては、折口信夫・宮本常一・瀬川清子をとりあげている。
本書に詳しくとりあげられていない民俗学者も多いが、ブックレットサイズ本故の紙幅の都合でやむをえず、詳述できなかったのだろう。
日本の民俗学の流れは、本書によってほぼ押さえることができそうだ。
柳田・折口の学問には、日本列島における暮らしのあれこれを、本質的に把握しようとするダイナミズムがあるようだ。(十分勉強していないため断言できない)
宮本民俗学は、暮らしをもっと具体的に見ていこうとする。
宮本の著作のどこかに、「田植えの前に代かきをしないと、植える際に手が痛くなる」という記述があった。
代かきの目的は、植える際に手が痛くならないようにするだけではないと思うが、大所高所的な学問からは、生活者のこのようなつぶやきは、聞き逃されてしまうだろう。
このような言葉を聞き取ることができる学問の奥深さは、凄いと言わざるをえない。