中村政則氏が、ご講演のなかで紹介されていた本。
歴史小説家が、近現代史を描いた作品を書く際に、どのような取材をしているかを語っている。
「小説は所詮、作り話なのだから(ディテールの正確さはどうでもよい)」という意見もあるというが、それだと、その作品が何を表現したいのか、わからない。
歴史小説は、史実や実在の人物を形象化した作品であるから、史実やその人物の現実とは異なって描いたのでは、歴史小説たる意味がない.
史実を厳密に踏まえた上で、作者の想像力をも駆使してこそ、史書以上にヴィヴィッドな歴史を描くことができるはずである。
中村氏は、この著者を司馬遼太郎氏と対比して論じられたが、司馬氏が史実を軽視しているとは、思えない.
吉村氏の取材の徹底ぶりが、司馬氏を上回っているということをおっしゃりたかったのだろうと思う.
歴史小説の方法は、歴史叙述の方法とは異なるが、いずれも確たる論証やたくましい想像力を必要とする点において、同様の作業が必要である.
歴史を学ぶものにとっても、一読の価値ある書だと思う.
(ISBN978-4-16-716946-6 C0195 \533E 2008,7 文春文庫 2010,7,1 読了)