平壌郊外で暮らすよど号ハイジャックグループとの縁により、数回にわたって訪朝した著者の北朝鮮印象記。
金王朝という(社会主義という衣を着た)絶対王権の原型は、毛沢東の中国だと思う。
粛清に次ぐ粛清によって自分を絶対的なカリスマに祭り上げるやり方は、金日成が毛沢東から学んだものだろう。
毛沢東にそれを教えたのは、スターリンである。
スターリン-毛沢東-金日成と受け継がれていったのは、絶対主義の系譜だけではない。
誤りを誤りと認めず、最高指導者の的はずれな思いつき的施策を国民に強制し、結果責任は適当なスケープゴートに負わせる。
無謬神話の否定は即、国家の崩壊につながるから、誰かが血祭りにあげられる必要があるのだろう。
しかし独裁者のほとんどは有能でない。
ない知恵をいくら絞っても、まともな知恵は出てこない。
農業も工業も崩壊し、飢えた民衆の不満をそらすには、独裁をさらに強化する他ない。
現在の中国やベトナムにはまだ、反政府の意思表示が存在する余地がある。
外見的には混乱しているように見えても、いずれはソフトに政権交替が行われて、共産党支配が終焉に向かうだろう。
北朝鮮で労働党が瓦解するときには、旧日本軍の一部がそうだったように、「一億玉砕」的な動きや民衆を巻き込んだ指導者の自死など、東アジアを巻き込んだかなりの混乱が考えられる。
どんな体裁に扮していようが、独裁国家に、いかなる未来もない。
以上は、『北朝鮮は、いま』や『北朝鮮現代史』などを読んで、想像できることである。
本書が「98%は嘘」と言っているのは、市場経済を自明のものとしている「日本」人にとって、北朝鮮の「社会主義」経済は容易に理解し難い部分が多いということのようである。
それはもっともなことだろう。
「日本」ではどうあれ、コッチではこうなのだと言われれば、なるほどと理解するのがオトナの対応であって、他国のやり方をことさら異常視するのは、自分の視野狭窄をさらけ出すことでしかない。
北朝鮮にとって、最も苦しい時代は過去のものになったのかもしれない。
しかし、労働党支配が続けば、いずれまた経済崩壊が訪れるだろう。
この社会主義国家の崩壊が、ドラスチックでないことを祈るのみだ。