『花と恋して』がお弟子さんによる評伝だったのに対し、こちらは本人による自伝。
とはいえ、自伝らしく時系列の整った回想録はさほど長くなくて、本の半分は、繰り返しの多い思い出話である。
また、『花と恋して』に記載のない特筆すべき事実が書かれているわけでもない。
本人の言として感銘深いのは、学のあり方に関する牧野の考え方である。
彼は、心身が健在である限り、学問的研鑽に努めるべきだと繰り返し述べている。
彼の業績はしかも、かつてなかったような発見をしたり、画期的な理論を構築するものではなく、すべての諸理論の土台となるべき地道で、終りのない分野である。
学問はかくありたいものだ。
アカデミズムに籍だけは置きつつ、純粋に学問の世界に遊んでいた人だけに、生活の糧を得ることやアカデミズム内部のしがらみには、無関心だったようだ。
それが現代でなく、学問の世界が封建的徒弟制にもっとも近かった時代だけに驚いてしまう。