ネパールにおけるバンドの先駆け的存在であるナマステバンドの全国公演に同行した著者の見聞記。
「第一章 動機」とあるが、著者がバンドに同行した動機は今ひとつわからない上、公演に際し著者がどのような役割を果たしたのかは、最後まで不明である。
今のナマステバンドは、日本公演をも実現し、CDも出している、メジャーなバンドであるが、本書の背景となった1999年公演当時、ネパールでは著名なバンドだったようだが、ネパールの外ではほとんど知られていなかったと思われる。
巡業における著者の立場は、マネージャーでも経理担当でもなかったようだ。もちろん、ミュージシャンでもない。
とりあえず気楽な同行者だったかに見える。
それだから一座の人々や観客の様子を客観的に観察することができたのだろう。
バンドの旅巡業などというのは、どこでもこのようなものかどうか、よくわからないのだが、そのエネルギッシュさには圧倒される。
ここには、酒と食べ物に執着する一方、時間や契約や自分の責任には、おそろしく無頓着な一座の人々が出てくる。
個々のの登場人物についてもっと書いてほしかったくらい、彼らはユニークな人物たちである。
観客たちは、一座の人々以上にエネルギッシュな人々で、彼らのコンサートは行く先々で満員になり、大興奮のるつぼと化して、大成功を収めていく。
YouTubeで見るナマステバンドの演奏は、決してファナティックなものではなく、むしろ淡々とした民族系の音楽に聞こえ、これに大熱狂する状況とはいかなるものか、想像できない。
ネパールは、ここ数年だけとってみても、政治的な大変動を経験している。
消費文化の流入によって、ネパール民衆の経済感覚も変わっていきつつあるだろう。
ネパールといえば、ヒマラヤの山麓に展開する素朴な暮らしを連想するが、政治的・社会的激動の中で、民衆がどのように生きているかを知ることのできる、大変おもしろい本だった。