日本の貧困問題と格闘する第一人者と、アメリカの貧困問題研究の第一人者との、内容濃い対話。
現在の貧困問題が「貧困スパイラル」であるという指摘には、暗澹たる思いにさせられる。
湯浅氏は『反貧困』で、現在の日本を「すべり台社会」と表現されていた。
崩壊斜面が少しずつ拡大していくように、昨日はまだ多少の余裕があると思っていても、より危機的だった人が滑り落ちてしまえば、次に落ちるのは自分なのである。
今、もっとも危機感を持つべき立場にいるのは中間層なのだが、彼らのほとんどは「自分はまだ大丈夫」と考えている。
アメリカの現実は、明日の日本の未来図である。
アメリカでは、教育や医療が市場経済に投げ出され、教師や医師たちがワーキングプアに落ちているが、日本がアメリカ化する日は、もうまもなくである。
本書は、これにどう抗するかにもかなりの紙幅がさかれている。
もっとも重要なのは、その点だろう。
メディアや政治はもちろん、大きな役割を果たすが、自律的に社会に発信できる能力を、メディアや政治に期待してはいけない。
著者らは、政党系列化されない運動を提起している。「旧左翼」や「第二保守」でダメだということははっきりしており、地域や職場に根ざしたしなやかなデモクラットが緩やかなネットワークを作っていくというやり方が望ましい。
中間層の自覚も大切だ。
労働力の買いたたき・値切りや社会保障の切り下げに対し、抗議の声をあげるのは、そんなに難しいことではないはずだ。
NOと言える小さな勇気が、必要だ。