『市場原理主義が世界を滅ぼす』のノートに、1990年代以降の日本社会の分裂について、思ったことを記した。
封建社会末期から近代初期の激しい階層分解の結果、失うべき何をも持たぬ労働者が作り出された。
1990年代以降、新特権層が形成されて、新たな貧困層が作り出されたのも、意図的だった。
特権層にとって、特権を世襲し永続させる上で最も重要なのは、秩序の維持である。
特権層の存在こそが、社会不安の原因であることを隠蔽しなければならず、告発者を「社会の敵」「みんなの敵」にしなければならない。
彼らにとって、不安の原因を見えなくさせる暴走者の存在は、好都合である。
「秋葉原事件」の犯人のような人間に、同情の余地はあり得ず、世論の耳目は凶行の行為のみに集まる。
暴走者の資質が問題にされ、両親を始め家族が暴走者を育てた責任者と目される。
しかし暴走者が、どんな情況の下でも暴走したとは限らない。
「秋葉原事件」の犯人による携帯サイトの書き込みは、事件の原因が彼の特異な資質のみによって起こされたものではないことを物語っている。
その点を指摘している著者はさすがだと思う。
この本には、苦しい思いをしつつも、暴走もせず、じっと耐えている人々や、命尽きるまで苦闘し続けた人々、独りで自らの命を絶った人々などが、おおぜい紹介されている。
著者の共感力に共感しないではいられない。
特権を固定化する勝手なルールを作って飽食を貪ろうとする人々の傲岸を許してはならない。
弱者同士が貶め合い、足を引っ張り合ってはならない。
弱者こそ、連帯し合わねばならない。