ちょうど10年前の渓だよりに
この世でもっとも醜いものは・・・。と記したが、その両方に痛めつけられた人々が、ダムに沈む村のご老人たちだ。
戦争と、ダム建設ではないでしょうか。
徳山村は、映画『ふるさと』と一連のダム関連書籍と増山たづ子さんの写真によって、日本人の記憶にとどまり続けるだろう。
戦争の際に権力者は、兵士の生命を無機的な消耗品としか考えないのと同様、ダム建設に際し建設官僚は水没地域の暮らしや歴史に思いを馳せたりしないだろう。
戦争は勝つ(もしくは敵にダメージを与える)ことが目的の行為であり、ダム建設は水を溜めることが目的である。
戦争によって幸福がもたらされることがないのと同様、ダムは、歴史を消し去り、暮らしを破壊し、生活の知恵や人の絆をずたずたにする。
戦争を行う権力者とダムを造ろうとする建設官僚は、同様にありとあらゆる詭弁を弄する。
なんと類似していることか。
不条理な破壊行為に対し、抵抗のすべが見あたらなければ、人はなによりも、記憶(記録)したいと願うだろう。
増山さんの民話集『真っ黒けの話』には、動植物と適度の緊張関係を持ちつつ共生してきた、村の暮らしぶりが描かれている。
徳山村には、2万2千年前から、人間が暮らしていたという。
それは、日本最古の部類に属する生活遺跡である。
ここは、この列島でもっとも暮らしやすい土地なのだ。
その徳山をカネとメンツのために水に沈めようとするのだから、この国はもう、終わっていると言える。
彼女が撮影した70万〜100万カットのフィルムには、徳山村の人だけでなく、列島に住む人すべてにとってかけがえのない、日本の暮らし方が記録されているに違いない。