国有林において、スギ・ヒノキをはじめとする人工林を育てるのは無意味かつ環境破壊であると主張する本。
著者は、造林がすべて悪だと主張されているわけではない。
需要に応じた木材供給がなされるためには林業が必要だが、国が林業を営まねばならない必然性はどこにもない。
国有林は、国民の共有財産であるだけでなく、列島に暮らす生き物の共有財産でもある。
意地の悪い言い方をすれば、林業は一種の商売である。
通信・郵便・交通など、人間が生きていく上で欠かせない国営インフラが、「官から民へ」の名の下に、カネの亡者の手に次々と売り渡されている。
もうからないとなれば、これらは捨てられる運命にあるのだが、地域で人が住めなくなろうが、カネの亡者の知ったことではない。
日本列島は誰がこしらえたものでもない。
国家とは、列島に住みついた人間の共同体のことである。
国家は、他の生き物の邪魔にならない範囲で列島を借用しているに過ぎない。
私人による林業は、他の生き物の邪魔にならない程度に認められてしかるべきであるが、国家が営利のために環境を改変するのは、日本列島使用規則(これは人間が勝手に改廃できるものではない)の根本に違反する。
ちょっと曲解かも知れないが、著者の考えをそう受け止めた。
林野庁は戦後、主として拡大造林に従事してきた。
戦争直後や高度成長期には、それなりの木材需要があったかも知れないが、木材バブルが永続するなど、あり得る話ではない。
国有林に、経営という視点を入れたこと自体がまちがっているのだが、経営戦略という観点から見ても、拡大造林はまちがっていた。
経営ミスの責任をとらなくてもよいのが、国家というシステムである。
まじめな職員が誠実に働いて全面破綻は免れているのだろうが、基本的な方向がまちがっていては、事態はよくならない。
官僚は、前例や既得権を食べて生きているから、このままでは国有林が切り売りされることになりかねない。
著者が言われるように、国有林再生のためには、林野庁廃止は有力な選択肢だと思う。
著者のブログ「林野庁の林業暴走」は、こちら。