人が自由に生きていく上で、社会や国家とかかわらなければならない。
社会や国家とのかかわり方についての、著者の最近の語りを集めた本。
ひとつは間接民主主義である「選挙民主主義」の限界性の指摘。
以前から言われていることではあるが、衆議院における小選挙区制の導入によって、日本における選挙の意義は、一気に卑小化した。
このままいけば、選挙の省力化のためと称して制限選挙が導入される日も近いのではなかろうか。
ふたつ目は、中流社会論の復権。
新自由主義経済の跋扈によってひどい格差社会となり、ワーキングプアと呼ばれる貧困層が増大するなど、1980年代には想定できなかった。
それはじつに迂闊だったと思うが、かつての日本は一億層中流社会を謳歌していたのだ。
社会や自然に目を向けることができるのは、余裕があるからだ。
明日をも知れない毎日を送っていながら、環境を論じることなど、できようはずがない。
いわゆる構造改革路線が否定されない限り、貧困層の比率は増大するだろう。
食っていくため森林に火を放って耕地化し、放牧場化した結果、大地が砂漠化して住むところさえ失ってしまう人々は、明日の日本であるかも知れない。
みっつ目は、市民による政策づくりの一環として創り出された「市民・教育の権利宣言」について。
教育基本法の改悪は、教育労働者のモチベーションを一気に低下させるものだったが、市民運動によって旧教育基本法の精神をさらに深化させる試みが行われたことに、意を強くさせられる。
日本の教育は、個人の尊厳を至高の価値とする人間を育てるのが目的でなければならない。
それを徹底するには、関係法規や制度を目的に合致するものへと変えていかなければならない。
ではどのように変えるのか、という問題についてさまざまな立場からオープンな議論を行う場がなかったし、大きな問題であるだけに、きちんと考えるたたき台になる文書だと思う。
抵抗するのも大切だが、市民の側から政策提言することが大切だと、本書はくり返し説いている。