岩手県沢内村を中心とする山間豪雪地の医療のあり方について論じた書。
国保連合会の側から沢内村の実践をまとめている。
沢内村の実践をひとことで表現することはできないが、あえて単純化すれば、医療保障と保健活動によって村民の健康意識を高め、除雪によって冬季の交通網を確保して労働と医療を可能にしたということだろう。
同様に豪雪地帯に位置する新潟県黒川村は、やはり村長のリーダーシップの下で、徹底的な産業の振興に取り組み、成果をあげている。
成果とは、そこで村人が生活可能な状態を維持できるという点である。
高度成長期以降の日本は、工業化の代償としての農林漁業つぶし=農山漁村つぶしを国策としてきた。
農山漁村にとって、苦しく悩ましい時代は今なお、続いている。
ところで、農林漁業に宿命的につきまとっていたのが、それが常に過重な労働だという点である。
それは、『炭焼物語』などを読むまでもなく、本サイト管理者が日々実感していることでもある。
過重労働からの解放は、戦後の農林漁業の最重要課題だった。
日本でこの課題は、アメリカなどと同様、資本の論理による解決が図られた。
農機・農薬メーカーのビジネスチャンスを拡大させたこと自体は間違いではないが、高価な農機や農薬の購入コストを農業者に負担させたことは、農業の足腰を弱体化させることにもつながった。
農機の共同利用も一部で実践されたらしいが、農作業の共同化は日本ではうまく機能せず、農機の個別購入は農産物の高コスト体質に結果した。
耕地整理が行われたことも間違いではなかったが、土建会社のビジネスを拡大させたことはさておき、これまた農産物のコストに跳ね返った。
現在の農政は、大規模化=農業の独占資本化をめざしているようだが、日本の国土の特性を考えれば、とうてい成功し得ないだろう。
故深沢村長も、経営基盤安定のため、村の農業規模拡大をめざしていた。
しかしそれが村民の健康・保健活動にとって逆効果かもしれないとの危惧も持たれたようだ。
日本は資本主義経済だから、計画経済のようなわけにいかないことは、自明である。
だかそれならそれで、国土の特質に適合した、戦略的な農政が考えられてしかるべきだろう。