国家的なプロジェクトやイベントの開催によって地域振興や一攫千金が夢見られた地域は数多い。
埼玉県秩父地方も、1990年前後には、リゾートブームに湧いた。
あふれ返った不動産マネーが秩父盆地に流れ込み、人々は半信半疑ながら信じられないような開発話を信じ始めていた。
秩父リゾートは、実質的に一企業(西武鉄道というか国土開発)が笛を吹き、自ら踊って人々をその気にさせた大規模な詐欺話だったのだが、人々にそれを信用させるために、国や埼玉県もかけ声をあげて一緒に踊ったのだった。
法律に基づく国家的プロジェクトの化けの皮をかぶっていなければ、人々はもう少し冷静に対応できただろうが、官僚や代議士を含め、責任あるはずの人々が声をそろえてバカ話をしていたから、みんなが何となくその気にさせられていたのだった。
明治初年の生糸景気は、バブルとは違った。
生糸も相場ものだが、皆それなりに慎重にやっていたし、客観的に見ても十分、可能性のある商品だったし、何よりも秩父の風土にマッチした商品だった。
秩父リゾートは、景観や土地を売ることによってあぶく銭を得ようとするものだったから、そもそも、持続する可能性など乏しかった。
当時、自分なりに分析したノートがこれだが、的外れではなかったと今でも思っている。
この本で報告されているのは、海洋博跡地となった沖縄県本部町のような、大規模開発の結末だけではない。
それなりの条件があって、開拓や造船・鉱山など、一時的に景気が沸騰する地域は、まれにある。
しかしそれは決して長続きしない。
この本に紹介されている町でいえば、福島県三島町のように、風土に即した産業を複数(なるべく多く)確立することが、地域の基盤をしっかりさせることにつながる。
そのためには、地域の自然と文化に関する、深い知識や技術が必要になる。