鉱山という世界にあまり親近感を持つことができない。
たぶん、それがあまりに消費的な産業だからだろう。
この本で取りあげられているのは、相川町(金)、小坂町(銅)、横田町(和鉄)、黒川村(石油)、大島町(石炭)だが、今も操業中なのは横田町の砂鉄採取・たたら製鉄だけだ。
山国日本で産出される鉱産資源は決して少なくなかったが、それが消費されるのも早かった。
金銀銅の消費が加速したのは、戦国時代から江戸時代にかけてだろう。
奥秩父には、金山沢という名前の沢が、秩父地方だけで4つある。
文政期に編集された『新編武蔵国風土記稿』には、入川支流の金山沢に「金山沢千軒」なる草蒸した鉱山遺跡があると記されている。
武田信玄が旧大滝村一帯の支配に執着したのは、秩父山地の鉱産資源をわがものにしたかったからだろう。
「金山沢千軒」が信玄の手の者による採掘遺跡である可能性は高い。
鉱山の史実からわかるのは、ゴールドラッシュの例のごとく、盛期には人が蝟集するが、遅かれ早かれ滅びるものだということだ。
活気のあるときの鉱山町はにぎやかで、集まってくる中には、面白い人も多いだろうが、滅びたあとのむなしさが大きい。
この本に出てくる町の多くはそうだが、多様な産業を開拓するのが、鉱山町ならずとも、地域のあるべき姿なのだろう。