独特の柱状社会構造を持ち、寛容と表現される方法で個人・社会間の関係を解決する社会的雰囲気を特徴とするオランダの紹介と問題点を指摘した書。
一つはこの国の教育制度に、もう一つはムスリムと世俗勢力との亀裂に、興味ある事例が記されていた。
8年間の基礎学校より上級の教育は複線的だが、教育費はほぼゼロに等しい。
このあたり、日本とは様相がずいぶん異なる。
日本と最も異なっているのは、教育の自由が実質的に保障されている点だろう。
公立私立の別を問わず、特定の教育理念に基づく学校や宗教的な理念に基づく学校を設立する自由があり、基準を満たす学校には、運営費が公費から支出される。
日本では、学校の教育理念などほとんど省みられることなどなく、せいぜい、その学校を出ることによってどんな進学先や就職先が保障されるかが注目されるに過ぎない。
グローバル化の流れの中で、オランダの学校でも統一テストが行われ始めている。
ちなみにOECDのテストなどでオランダは、なかなかいい成績をあげている。
教育内容は視察官によりチェック・評価され、公開される。
日本でも教育委員会による視察は行われるが、その結果は当該校にさえ知らされない。
重要なのは、公開という原則だろう。
オランダの学校は、教育活動の実態などを詳細に公開する義務を負っている。
埼玉県立高校の場合は、各校の「学校自己評価シート」なるものが2005年度から公開され始めたが、教育活動の実態報告にはほど遠い抽象的な内容でしかない。
日本でも学校のよりリアルな実態が公開されなければならないのではないか。
学校のあり方を含めて、オランダの直面する困難な課題は、マイノリティなかんずくムスリムとの共生という問題である。
「文明の衝突」と称されるような事態がなぜ生じたかについては、さらに勉強しなければならないが、近代(西欧)民主主義は、マイノリティ問題に有効な思考方法を持たなかったようだ。
現に進行しつつあるテロと復讐の増幅という状態の中で、挑発者は、容易に社会的対立の醸成に成功している。
しかしグローバリズムは必然的に、文化的な摩擦をもたらす。
近代民主主義をさえろくに消化できず、まわりと異なる存在を許容できなかった日本人が、多様な異文化といい関係を作るのは至難の業になる。
この面でオランダが、どのように対処していくのか、見てみたい。