日本がどのような社会に向かって進みつつあるかを鮮やかに描いた書。
総中流社会などというのは全くの幻想だったのだが、ある意味でそれは、めざすべき理想社会だったのかもしれない。
ともかく、今日の日本は確実に、ごく一部の富裕階級と厖大な貧困階級とに分裂しつつある。
富裕者と貧困者の決定的な対立はまだ、顕在化していないが、それも時間の問題だろう。
富裕者と貧困者との共通のアイデンティティがなければ、社会は分裂し、抜き先ならない対立が生じてしまう。
そうなるのを防ごうとして支配者は、ナショナリズムを鼓吹している。
教育基本法改悪の意図は、教育をめぐる問題の解決とはなんの関係もなかった。
分裂しつつある日本社会の現実を隠蔽するのに彼らは、ナショナリズムを高揚させるより他に、思いつかないのだろう。
アメリカあたりだと大々的な国家的謀略が用いられるのだろうが、日本では情報機関と武力機関が一体となった謀略事件が計画されるまでには至っていない。
しかしこの間明らかになった教育改革をめぐるタウンミーティングにおける「やらせ」事件などを見ていると、日本の支配者がいよいよ謀略の企画に着手しつつあることが窺われる。
ところで本書は、日本の労働人口の4分の1が生活保護水準で暮らしているという衝撃的な実態を分析している。
このことは二重の意味で衝撃的だった。
一つは、自分が今、日々つきあっている若者たちがこんご出て行かねばならない社会の苛酷さへの衝撃であり、もう一つは自分自身がワーキングプアに転落することへの恐怖である。
教育は、生きる自信と勇気を与えるものでなければならない。
しかし、これほど苛酷な社会の中で、どうすればプライドと達成感を持って生きていけるというのだろう。
市場経済が競争経済であり、勝者と敗者が存在することは事実だ。
心を持たないロボットならば、他人に勝つことが幸福への道だと考えることもできるだろうが、人間はロボットではない。
人間は、優しさや思いやりことが至高の価値であると教えなければならない。
働くことは、自分の誇りを積み上げることだと教えなければならない。
だとすれば、やはり社会がまちがっているのだ。
この流れを断ち切らなければならない。