ニシンがなぜ、北海道沿岸でとれなくなったのかを追及した小説。
読んでみたいと思っていた本を読むことができると、とても満足します。
これも、そういう本でした。
戦後すぐの時期まで、80万トンの漁獲を誇ったニシンが、日本の復興とともに、北海道沿岸から姿を消したのは、なぜか。
主人公は、その謎を解くべく、北海道各地の、元ニシン浜だった町を、訪ね歩きます。
ところが、だれひとりとして、その謎を解明してくれる古老はいません。
ニシンとともに、取り返しのつかないものを、日本人が失ったのだということが、だんだん見えてきます。
政治も、国民も、80万トンのニシンが失われたことの重大さを感じとるセンスを、持っていません。
主人公は、そんな日本の現状を、ひたすら憂いています。
そんな主人公に、ニシンの群来がなくなった原因は、北海道の山林の荒廃にあるのではないかという示唆が与えられます。
きっとそうにちがいない、と主人公は、山に向かいはじめます。
小説としては、そこまでで終わっています。
ニシンは、北海道の山と海を包含する広大な生態系の象徴だったのです。
北海道の浜に寄りつかなくなったニシンが、シベリア沿岸には、群来しているのは、どうしてか。
オホーツクやベーリング海まで、獲りに行けばよいというものでは、なかったはず。
ひとつの魚がいなくなるということに対する想像力が、もっともっと必要だと思いました。
(平成元,10 国書刊行会刊 1200円 2001,3,4 読了)