白神に関するシンポジウムの記録をまとめた本である。
シンポジウムなので、一冊の本だが、いくつかのテーマに分かれている。
一つは世界遺産をめぐる問題について。 世界遺産は、文字通り世界の遺産なので、国を超えて守られなければならないということ。
世界遺産に登録された白神はもう、日本人だけにとっての自然財産にとどまらず、世界全体にとって普遍的な価値を有すると認められ、保護がはかられねばならなくなったということである。
白神が世界遺産に登録された理由は、ブナ原生林が手つかずでまとまって残されているから、とのことだ。
とすると、「手つかず」と「まとまり」を維持することが、課題でなければならない。
地元住民にとっての白神と、世界遺産としての白神。
白神への関わり方が、問われている。
よく言われていることだが、白神だけが特別に貴重なのではない。
たとえば、飯豊や朝日連峰、和賀山塊、八幡平・秋田駒ヶ岳一帯にも、広大なブナ林が広がっている。
これらの地域が観光開発の魔手に蝕まれていなかったとしたら、どれだけみごとなブナ王国が残されていたか。
白神の周縁部を始め、現時点で破壊から免れているブナ林を守ることも、重要な課題であるはずだ。
もう一つは、ブナ林の歴史と住民との関わりについて。
四手井綱英氏の講演によると、戦前、ブナ林は、床材などの建築用材として利用されるようになり、次いでパルプ材、さらに航空機用材に使われるようになると、壊滅的な打撃を受けた。
いうなれば、「拡大造林」の始まる前に、ブナ林の受難は始まっていたようだ。
森の機能というものを純粋に金儲けの観点からだけ考えると、いかにして良質な建築用材を大量に生産するか、ということを中心に考えざるを得ない。
しかし、よりグローバルな経済的観点から考えれば、森を維持し、再生する仕事には、とても大きな経済的価値がある。
経済学を、社会を維持していくための人間の生活と人間関係の総体として位置づけ、日本の財政・行政を見直していくべきだと思う。
白神から学ぶことはまだまだありそうだ。
(ISBN4-496-02244-3 C0036 \1700E 1998,9 同友館刊 1999,3,9読了)