1944(昭和19)年に刊行された画文集を体裁を変えて復刻した本です。
画家のことについては何も知らないまま、読み始めました。
ところどころに挿入されているたくさんの絵は、水彩画なのでしょうか。
モノクロ印刷なので、戦争中の秩父山塊が、どのような色あいで描かれているのかは、よくわかりませんでした。
しかし、叶山と武甲山以外は、当時のままの山であるわけですし、山ひだに建つ人家の形も、石を乗せた屋根が瓦葺きになった以外は、さほど大きな変化がないと思います。
読んでいて、この時代の文章に特有の、時局がらまりの醜いフレーズが少なく、岩石と地層の分析を愉しんでいるところが、ほっとさせます。
山と人との関わりに関心のある私にとっては、中津川と金山・小倉沢の日窒鉱山についての描写が、とても印象的でした。
典型的な林業集落だった中津川。
この時点でも、農業はほとんど成立していませんでした。
金山から流れてくるのは神流川。
今なお、魚が住まないと言われている死の川です。
「粉末となった廃石が神流川を灰色に染めているが、これも時局色である」とあります。
今はほとんど人影を見なくなりましたが、この時期小倉沢に2000人が暮らし、小鹿野の奥から索道で物資が運ばれていたそうです。
旅をしたら、文物をよく見て、人の話をよく聞いてきたいものだと思いました。
(ISBN4-7727-0283-0 C0395 \1650E 1998,9 五月書房刊 1999,2,2読了)