峻険な脊梁山脈に膨大な水と森林を有し、その山地を背景として成り立つ扇状地及び沖積平野を舞台に、日本人は、独特の文化を創りあげてきたわけです。
山地とそこに住む人間は、は、自然のバランスの上でも、人間の経済・流通の上でも、不可欠の役割を担ってきました。
それが、日本という国なのです。
日本人が、この列島に住み続ける気があるならば、まず、そのことを承認すべきです。
この本は、1983年から1991年にかけて山村シンポジウム企画委員会が行ってきたシンポジウムでの報告集です。
ここには、高度経済成長以降、日本の山村がいかなる事態に直面したかが、林業に携わる人々をはじめ、さまざまな立地にある山村で村おこしを実践している人、その他山村の問題に取り組んできたあらゆる立場の人々によって、語られています。
その意味で、この本には、山村の抱えるあらゆる問題とその解決のためのヒントにあふれています。
列島の自然に見合った日本の経済や文化を実現するためには、山村問題が解決されなければなりませんが、そのための方策は、ほぼはっきりしていると言ってよいと思います。
問題は、ひとつには、将来への何の見通しもなく「右肩上がりの経済成長」を唱え続ける政治にあると思います。
日本は、想像力と構想力を備えた政治に恵まれていないですね。
もう一つの問題は、そのような政治を支えづけている、私たち国民の意識だろうと思います。
経済的豊かさと「豊かな心」は、両立し得ないのではないか。
知的探求心と「豊かな心」とは、ほんとうに両立し得るのか。
それは価値観の問題なのでしょうか。
この本からは、貧しくとも心豊かな日本の暮らしを提示されたように思いました。
(ISBN4-8188-0765-6 C0036 \1854E 1994,10 日本経済評論社刊 1999,1,23読了)