本書は、日本の川がどうなっているのかを、美しい写真とともにルポした作品です。
ここに、登場するのは、いずれ劣らぬ超有名・名河川ばかりです。
黒部川といい、大井川といい、部分的にはいまだに秘境と呼べる流域を持つ川にして、筆者にすれば、「もうこれは川ではない」といわざるを得ない惨状なのです。
本書には登場しませんが、私の地元の荒川も、名河川といえる水域を持っています。
しかし、その実態は、瀕死状態から仮死状態に立ち至ったと言ってもよいでしょう。
日本の近代化は、人の暮らしと川とを無理やりに遠ざける過程でもありました。
日本人の暮らしの喜怒哀楽が、川から疎遠になってもなお、日本列島にとって血液ともいうべき役割を果たしてきた川に関わり続けたのは、川漁師と呼ばれる人々と、子どもたちだったのではありますまいか。
川をもっともよく知る川漁師の人々は、早くから川の異変に気づいていたはずですが、川とは無縁の生活に移行しつつあった一般市民との、抵抗のネットワークを作ることはできませんでした。
近代日本にあって、子どもたちは、国家によって人質に取られていたようなものです。
自由な意見表明などは、人間として育っていく上で、もっとも配慮されねばならないのに、子どもたちはいつも「教育」(マインドコントロール)の対象でした。
「よい子は川で遊ばない」という看板は、今でも見られます。
現在、川とアクティブな関わりを持っているのは、ごく一部の川漁師の人々以外には、釣り人(遊漁者)やカヌーイスト、そして沢登りの登山者くらいでしょうか。
川をめぐるネットワークが、もっともっと作られねばならないと感じます。
(ISBN4-00-002827-8 C0036 \1900E 1998,5 岩波書店刊 1998,8,6読了)