中世民衆史の魅力は、そこに登場する人々の表情が生きていることだと思います。
歴史的制約を受けながらも、場合によっては歴史を突き抜けていきそうな不定形ささえ、感じられます。
底辺に生きる民衆が、昂然と前を向いて暮らしているのです。
この基底に、村や町における民衆各層の主体形成が存在したこと。
猿楽や作庭など、賤視されていた人々によって創造された芸能が、緊張感みなぎる芸術の粋にまで磨きあげられていたことなどが、指摘されています。
足利義政という人物が、その意に反して、室町時代から戦国時代への橋渡しの役割を演じざるを得なかった時代の、生活文化の総体を、この本によって俯瞰することができました。
しかし、この本に出てくる下層民衆のほとんどは、「河原者」など都市民なのです。
山民が、生き生きと暮らしていた時代も、きっとあったと思うのです。
中世における山民の実態について、もっとくわしく知りたいものです。
(ISBN4-582-76078-3 C0321 P1000E 平凡社ライブラリー 1994,11刊 1998,3,11読了)