イワナは、私にとって、出会いの魚です。
奥秩父の渓で、たくさんの思い出深きイワナと出会うことができた私は、じつに幸せです。
自分が釣ったイワナの思い出がもっとも多いのですが、同行した友人が目の前で釣ったイワナの思い出もあります。
標高1500メートルを超えた細流に生き続ける魚を釣るのは、罪ではないのか、と考えさせられるのも、イワナです。
魚の中でもっとも表情が豊かなのも、イワナです。
そして、ハリのついたエサを見つけて、岩からいそいそと出てき、くわえたエサをもぐもぐしながら岩に帰っていく、あまりにも悲しい純真さを持っているのも、イワナです。
イワナは、謎多き魚です。
本書は、私が知りたいと思っている、本州のイワナの生態や分布について書かれたものではなく、オショロコマとアメマスの生態のちがいとその意味についての研究です。
ほとんどの釣り人は、オショロコマとイワナのちがいくらい、知っていると思いますが、これら二種類の魚が、北海道でどのような形で共存ないし棲み分けしているのか。
詳細なデータや実験によって、それらが次第に解き明かされていきます。
著者の結論は雄大です。
氷河期から間氷期に至る地球史の過程で、北海道のオショロコマはイワナとのきびしい生存競争に敗北しつつあるのだというのです。
彼らは地球の歴史を背負った生存の闘いを、日々闘っているのです。
このことに、とても感動してしまいます。
数日後には、クリントンがフセインに戦争を仕掛けるようですが、オショロコマの闘いにくらべれば、なんと普遍性のない闘いでしょう。
現在、進行しつつある地球の温暖化は、守勢に立たされているオショロコマの立場を極端に悪くするものです。
なんと、申し訳ないことではありませんか。
当ホームページは、現在開催中の長野オリンピック、スキー男子滑降のコース造成のために渓流を破壊して、イワナの住みかを奪ったことに対し、厳重に抗議を致します。
(ISBN4-00-420272-8 C0245 P650E 1984,7 岩波新書 1998,2,18読了)