日本がいつ、どうしてこんな国になっちゃったのか。
日本はむかし、どういう国だったのか。
そもそも、日本とはどういう国なのか。
社会の構造を科学的に分析する上で、かつては、マルクス主義歴史観がもっとも有効でした。
しかし、マルクス主義史観からこぼれ落ちるところに、社会の重要な要素が多く含まれていることを指摘したのが、著者らによる「社会史」でした。
この本は、「社会史」の観点からのはじめての、コンパクトな日本通史です。
そんなことはまあ、どうだっていいことです。
たまたま本屋で見かけたので、まず下巻を読みました。
この巻には南北朝期から江戸中期までの日本の歴史が描かれています。
内容は、じつにおもしろい。
中世後期から近世までの日本では、社会と国家とが相克しあいながら変貌を遂げてきたのだということが書かれています。
海民や職能民、芸能民、商人などによる東アジア規模のネットワークが常に存在し、国家はそれを利用し、あるいは服属させつつ存立してきたというわけです。
網野氏の歴史には、豊かな表情を持った人間が見えてきます。
ところで、この本の本格的な歴史叙述は、江戸中期で終わってしまいます。
私としては、その続きがぜひ読みたく思いました。
江戸中期から高度経済成長の前までが、中世に広範に成立した民衆世界が崩壊する過程のように思えるからです。
高度成長以後の日本は、社会そのものの滅びの過程といえると思います。
「展望」の章に書かれたスケッチをもとに、自分でも近世〜近代の社会史を考えてみたいと思いました。
もう一つ、海民に比して、山民に関する記述が少ないのは、やや欲求不満が残りました。
山村や奥山にどのような人々が住み、どのような文化が存在して、国家とどのようにかかわり合っていたのか。
彼らの文化がいかなる自然を背景として成り立っていたのか。
文献史料には、限界があります。
しかし、とても大事なテーマではあると思いました。
(ISBN4-00-430502-0 C0221 \640E 1997,12月刊 岩波新書 1997,12,27読了)