自動車という乗り物が、社会と人間に、どれだけの不条理を強いているかは、あまりにも意識されていません。
それを意識することは、自動車がないと働けなかったり、レジャーに出かけることができなかったりする自分たちを撃つものだし、自動車産業に働いているたくさんの人びとを撃つものだからです。
しかし、あえてそれを意識しないことが、人間としていかに不誠実であるかを、この本は告発しています。
自動車事故で人を死に至らしめた場合の刑罰は、殺人よりはるかに軽い。
しかも、年々寛刑化の方向にあります。
それは、交通死を日常的にありうべきものとする、今の社会を反映したものです。
しかし、なぜ、交通死に従順であらねばならないのか。
だれも説明できないでしょう。
自動車に乗るものにとって必要不可欠な保険制度は、人の命や人格の価値をお金で計ることにほかならない。
しかも、保険会社にとっては、それをなるべく安く買いたたくことがビジネスであり、加害者にとっては、安いお金で民事的責任から逃避できる方法でもある。
こういう考え方は、ある意味では一方的ですが、正論でもあります。
クルマ社会はいずれ、考え直さねばならないと思いました。
(ISBN4-00-430518-7 C0232 \630E 1997,8月刊 岩波新書 1997,12,22読了)